『まちの居場所、施設ではなく。:どうつくられ、運営、継承されるか』(水曜社, 2019年)のご案内

「まちの居場所」についての新刊書、『まちの居場所、施設ではなく。:どうつくられ、運営、継承されるか』(水曜社, 2019年)の中で、大船渡の「居場所ハウス」のことを執筆させていただきました。

田中康裕『まちの居場所、施設ではなく。:どうつくられ、運営、継承されるか』水曜社, 2019年

2000年頃から、従来の施設にあてはまらない新たなタイプの場所が、同時多発的に開かれるようになってきました。コミュニティ・カフェ、地域の茶の間、まちの縁側など様々な名称で呼ばれるこれらの場所は、介護、生活支援、育児、退職後の地域での暮らし、貧困といった切実な、けれども従来の制度・施設の枠組みでは十分に対応できない課題に直面した人々が、自分たちの手で課題を乗り越えるために開かれた場所だという共通点があります。これらの場所でしばしばキーワードとされるのが居場所であり、筆者らはこのような場所を「まちの居場所」と呼び、研究を続けてきました。
近年では「まちの居場所」には介護予防の効果があることが広く認識されるようになり、2015年に施行された「介護予防・日常生活支援総合事業」(新しい総合事業)では、「まちの居場所」をモデルとした「通いの場」がサービスの1つとして盛り込まれました。草の根の動きとして同時多発的に開かれてきた「まちの居場所」は、制度に影響を与えるまでになったと言えます。

本書ではこれまでに筆者が調査をしたり、運営に携わったりしてきた次の4つの場所を取り上げています。

  • 東京都江戸川区で子どもだけでも入れる喫茶店として開かれた「親と子の談話室・とぽす」(1987年~)
  • 大阪府千里ニュータウンで空き店舗を活用して開かれた「ひがしまち街角広場」(2001年~)
  • 東日本大震災の被災地である岩手県大船渡市に開かれた「ハネウェル居場所ハウス」(2013年~)
  • 新潟市に「地域包括ケア推進モデルハウス」として開かれた「実家の茶の間・紫竹」(2014年~)

4つの場所はオープンのきっかけも、地域も、運営内容も異なりますが、大切にされていることには多くの共通点があることに驚かされました。そして、それは介護予防という側面だけでは語り切れないものであることにも気づかされました。こうした体験が、本書執筆の背景となっています。
本書は、4つの場所の具体的な姿を描くことを通して、「まちの居場所」では何が大切にされ、それはどのように継承していくことができるのかを考察したものです。本書が「まちの居場所」がもつ可能性を発見し、地域における豊かな暮らしを実現するためのきっかけになれば幸いです。

目次

まえがき
第1章 4つの「居場所」
第2章 施設ではない「場所」
第3章 親と子の談話室・とぽす
第4章 ひがしまち街角広場
第5章 居場所ハウス
第6章 実家の茶の間・紫竹
第7章 運営の継続
第8章 「私」と「地域」にとっての価値
第9章 価値を継ぎ、さらにゆたかに
あとがき:先行研究者から「まだみぬ読者」へ