ワシントンDCの非営利法人・Ibashoは、現在社会において弱者だと見なされる高齢者が、何歳になっても自分の得意なこと、自分にできることを通して役割を担い、地域に住み続けることができること、つまり、高齢者という概念を変えることを目指しています(Ibashoが掲げる8理念はこちらをご覧ください)。
東日本大震災後、Ibashoの呼びかけにより、大船渡市末崎町に「居場所ハウス」がオープン。そして現在、世界銀行・防災グローバルファシリティ(GFDRR)のプログラムのサポートを受けながら、フィリピン・オルモック市のバゴング・ブハイ(Barangay Bagong Buhay)でIbashoフィリピン、ネパールのマタティルタ(Matatirtha)でIbashoネパールのプロジェクトが進められています。
2018年6月20(水)~6月24日(日)、フィリピンにおいて、「居場所ハウス」、バゴング・ブハイ、マタティルタの3カ国のプロジェクトのメンバーが集まり、これまでの経験を共有し、今後の活動に向けた学び合いをするための機会がもたれました。「居場所ハウス」からはKさん、Uさんの2人が参加。
前半、6月20日(水)~21日(木)はマニラのADB(アジア開発銀行)でのセミナー。後半、6月23日(土)~24日(日)はIbashoプロジェクトが活動するオルモック市のバゴング・ブハイを訪問しました。
コンテンツ
バゴング・ブハイでの活動
ミーティング
- 6月23日(土) 9時30分~10時50分
9時30分頃から、バゴング・ブハイのバランガイ・ホール(Barangay Hall)にてミーティングを開始。Ibashoフィリピンのメンバーの中には、マニラで開催されたADBでのセミナーに参加していない人もいるため、最初に「居場所ハウス」、Ibashoネパールの活動を紹介。
次にADBでのセミナーに参加したメンバーから、セミナーでの経験を報告しました。ある方から、自分たちが抱える課題には共通点があることがわかり、それを多くの人に共有できたのがよかったという話がありました。
この日に合わせて、Ibashoフィリピンのメンバーは、ロゴ入りのポロシャツを作ったとのこと。白いポロシャツを各自持ち寄り、胸にIbashoフィリピンのロゴ、背中に「By the Elders and for the Elders」(高齢者が高齢者のために)をプリントしたものです。
2日間のスケジュールを確認した後、実際にIbashoフィリピンの農園と、拠点となる建物の建設予定地を見に行きました。
Ibashoフィリピンの農園・拠点の建設予定地の見学
- 6月23日(土) 11時00分~12時00分
農園はバランガイ・ホールから歩いて5分くらいのところにあります。11:00頃、農園に到着。農園には茄子、ピーナツ、モロヘイヤ、オクラ、ヘチマなど植えられています。
「居場所ハウス」のKさんは、前回の訪問時に農作業の指導を行いましたが、この日も土をもう少し細かく砕いた方がいいというアドバイス。「居場所ハウス」から参加していたもう1人のUさんは、ビニール袋に葉っぱや抜いた草を入れ、逆さまにしてしばらく置いておけば肥料になるというアドバイス。
最近、Ibashoフィリピンのメンバーは、サンフラワー・プロジェクトを始めました。農園にはサンフラワー(ひまわり)を植えた鉢も並んでいました。収穫した種は食用にもなり、また、化粧品会社に販売することで資金獲得の手段にもなるとのこと。
Ibashoフィリピンには農園が2つあります。11:30頃、2つ目の農園へ。こちらは、農園の予定地ということで、まだ農作業は始められていませんでした。
11:35頃、バランガイ・ホール近くの屋根付きのバスケットボール・コート脇に到着。ここが、Ibashoプロジェクトの拠点となる建物の建設予定地です。建物の設計を依頼していた技術者の男性から、図面などを見せていただきました。
掲示板についてのミーティング
- 6月23日(土) 13時30分~14時00分
Ibashoフィリピンの拠点となる建物の建設に合わせ、Ibashoフィリピンの活動場所や活動内容を伝えるための掲示板作りをすることになっています。掲示板はIbashoフィリピンのものであるため、最初にIbashoフィリピンのメンバーで、どのような掲示板にしたいかを話し合ってもらいました。
話し合いの参考として、「居場所ハウス」、Ibashoネパールの掲示板の写真を見てもらいました。「居場所ハウス」の掲示板は行事のチラシを掲示するもの、Ibashoネパールの掲示板には地図が掲示されており、Ibashoプロジェクトの活動場所、村の主な場所、そして、地震時に避難できる場所などが記載されています。
Ibashoフィリピンのメンバーの話し合いにより、行事のチラシ、避難地図の両方を掲示するものにすることが仮として決定されました。
スキル交換(技術交換)としての掲示板・クラフト作り
- 6月23日(土) 14時10分~18時00分
今後のIbashoプロジェクトの参考にするため、スキル交換として、各国のIbashoプロジェクトで取り組んでいることや、参加したメンバーが得意な技術の紹介が行われました。
この時間は「居場所ハウス」、Ibashoフィリピン、Ibashoネパールのメンバーが2つに別れて、スキル交換が行われました。
1つは主に男性が参加して、掲示板作りを行うグループ。
「居場所ハウス」のKさんは現役時代、建築関係の仕事についており、「居場所ハウス」の大工仕事を中心になって担当しています。Ibashoネパールから参加したMさんも元大工で、掲示板作りに参加。Ibashoフィリピンの男性1人も、元大工だとのこと。最初にそれぞれが掲示板のデザインを提案し、必要な木材の検討が行われました。この後、実際に木材、釘などの買い物へ。
もう1つは女性が参加し、クラフト作りを行うグループ。
最初に「居場所ハウス」のUさんが手拭い帽子の作り方を紹介。Uさんが日本から持参した布を使って、帽子を作っていきます。後でUさんに聞いたところ、1人で教えるには人数が多く、また、言葉も通じなくて大変だったが、普段から裁縫をしている人にはすぐ縫い方が伝わったという話。縫い方を覚えたら自分たちの国に合うようにアレンジして作り、販売し、活動資金にしてもらえばとUさん。1時間ほどで手ぬぐい帽子がおおよそ仕上がりました。
次にIbashoネパールの女性からビーズのイヤリング作り、クイリング(Quilling)のイヤリング作りの紹介。いずれも、Ibashoネパールで行われているものです。イヤリングは針金とビーズを材料とするもの。クイリングとは細長く切った色紙を巻き、それを組み合わせて様々なデザインを作っていくもの。この日はクイリングによってイヤリングを作りました。
16:00頃、ビーズのイヤリング作り、クイリングのイヤリング作りの紹介が終わりました。掲示板の木材を買いに行ったメンバーが帰ってくるのを待つ間、部屋にいた女性は、引き続きクイリング作りをしたり、「居場所ハウス」のUさんがもう1つ用意していた新聞紙の花のブローチ作りを教わったり、あるいは、お互いのFacebookの紹介をしあったりして過ごしていました。
部屋にいたのは20代から70代の3ヶ国の女性でしたが、一緒にクラフト作りをしたためか打ち解けあっているように見えました。
NSJMPAによるマングローブ・エコツーリズム・パーク訪問
- 6月24日(日) 9時30分~12時15分
ライブリフッド ・プロジェクト(Livelyhood Project)、つまり、地域の課題解決を通して生活環境を改善したり、生計を立てたりすることにつながり、同時に、プロジェクトの収入となることで持続可能性を実現することの参考にするため、朝からオルモック市のナウンガン(Barangay Naungan)で活動するNSJMPA(Naungan San Juan Mangroves Planters Association)のマングローブ・エコツーリズム・パークを訪問しました。Ibashoフィリピンのメンバーとは、今年の2月に訪問したことがあります。
マングローブには「居場所ハウス」、Ibashoネパールのメンバーと、Ibashoフィリピンのメンバー3人など、計16人が訪問。マングローブ・エコツーリズム・パークの見学と、NSJMPA代表の女性から、プロジェクトを始めた経緯、20年以上も活動を継続できた理由、課題、工夫していることなどの話を聞かせていただきました。
スキル交換:掲示板作りと各国の料理作り
- 6月24日(日) 13時45分~15時00分
午後からはバゴング・ブハイを訪問し、掲示板作りの続きと、各国の料理作りを行いました。
バランガイ・ホール(バランガイ・ホール)前の多目的室(Multipurpose Room)にて掲示板作り。先日購入した木材で掲示板を作っていきます。
Ibashoフィリピン、Ibashoネパール、「居場所ハウス」の男性が順番に作業を担当しながら、購入したベニヤ板を掲示板の大きさに切る、角材を使ってフレームを作る、支柱となる角材を取り付けるなどが行われました。
15:00頃には掲示板が完成。Ibashoネパールの2人の男性からは、掲示物の雨よけのため、屋根をつけてはどうかというアドバイスが行われました。
完成した掲示板に緑のペンキを塗っていきます。男性だけでなく、調理をしていた女性らも、少しずつペンキ塗りに参加。15:30頃にはペンキ塗りが終わりました。
掲示板作りと並行して、向かいのフィーディング・センター(Feeding Center)ではフィリピン、ネパール、日本の3ヶ国の料理作り。フィーディング・センターはIbashoフィリピンのメンバーによる改修により、キッチン部分が増設された場所です。
「居場所ハウス」のUさんは「すいとん」を調理。フィリピンに出発する前から、現地で入手できる食材や、宗教上のことなどを検討され、「すいとん」を作ることにしたという話でした。
調理も15:30頃には終わりました。
Ibashoプロジェクトの拠点となる建物の地鎮祭
- 6月24日(日) 16時15分~16時45分
掲示板作り、各国の料理作りが終わった後、Ibashoフィリピンの拠点となる建物の地鎮祭を開催しました。屋根付きのバスケットボール・コート脇の長方形の土地。バゴング・ブハイのバランガイ議会の議員(Barangay Council)、及び、建物の設計を担当した技術者の到着を待ち、16:15頃から地鎮祭が始まりました。
地鎮祭の様子はこちらをご覧ください。
各国の料理を食べながらの交流
- 6月24日(日) 16時45分~18時00分
地鎮祭が終わった後、フィーディング・センターに戻り、先ほど作ったフィリピン、ネパール、日本の料理をみなで食べました。
今回、「居場所ハウス」、Ibashoネパールのメンバーがフィリピンを訪問した目的の1つはスキル交換ですが、スキル交換について次のことを感じました。
それは伝えるべきスキルとは何かということについて。手拭い帽子、ビーズのイヤリング、クイリングのイヤリング、掲示板は、今後のIbashoプロジェクトの参考になればと思いますが、お金をかけなくても、現地で入手可能なもので何とかできるということ自体が、伝えるべき重要なスキルであること、この意味でスキル交換に年齢は関係がないことを感じました。