2017年8月2日(水)~8月11日(金)までネパールのマタティルタ(Matatirtha)村を訪問しました。マタティルタはIbashoプロジェクトが進められている村です。
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Ibasho as a Village(Ibasho Eco-System)というコンセプト
ワシントンDCの非営利法人「Ibasho」は、大船渡市の「居場所ハウス」、フィリピン・オルモック市のバゴング・ブハイ(Barangay Bagong Buhay)でIbashoフィリピンのプロジェクトを行なっています。「居場所ハウス」、Ibasho Philippinesと比べた時、マタティルタ村でのプロジェクトの特徴は「Ibasho as a Village」(Ibashoの8理念が実現される村)、あるいは、「Ibasho Eco-System」(Ibashoのエコシステム/生態系)というコンセプト。このコンセプトは、今年3月のワークショップから生まれたものです。
ワシントンDCの「Ibasho」が掲げる理念は、高齢者が何歳になっても自分にできる役割を担いながら暮らせる地域、高齢者が他の世代から隔離されず他の世代との関わりを持ちながら暮らせる地域の実現。
マタティルタ村ではまだIbashoプロジェクトの拠点となる建物がないため、農園、高齢者住宅(Oldage Home)、「Mahila Samuha」と呼ばれる女性グループの建物など、村にある場所を使いながら徐々に活動を進めています。いずれ、Ibashoの拠点となる建物を確保することを計画していますが、拠点となる建物が完成した後も、その建物を単体として利用するのではなく、上にあげた農園、高齢者住宅、女性グループの建物など村にある様々な場所との使い分けや連携を考えていく。これは、Ibashoの活動を単体の建物・空間から解放し、理念を実現するための地域における動きとして見なすということでもあります。
今回の訪問の目的の1つは「Ibasho as a Village」の実現を目指し、村にある場所の環境改善のための具体的な活動を行うこと。例えば、清掃やペンキの塗り替えによってきれいにしたり、テーブル・椅子などの家具を作ることで使いやすくしたり、Ibashoプロジェクトが行われている場所を案内するための掲示板を作ったり。単なる話し合いではなく、村をよくするための具体的な活動であり、活動の結果が目に見えるかたちで現れること。そのような活動をすることが目的です。
これまでの活動の振り返りと当面取り組む活動
8月4日(金)、高齢者住宅にて、村でこれまで行ってきた活動の振り返りと、当面取り組む活動について意見交換しました。
村の方に、地図を使いながらこれまで行ってきた活動を紹介してもらった後、ワシントンDCの「Ibasho」代表のKさんから、今回の滞在中、私たちがお手伝いできるのは、何らかの具体的な活動を行うことという話がありました。活動の結果が目に見える変化として現れることで、村の環境を良くすることにつながるし、それを見た人にIbashoが何をしているかを伝えることもできる。より多くの人に参加してもらうためのきっかけになる。Kさんは、上に書いたペンキ塗り、テーブル・椅子などの家具作り、掲示板作りなどはどうかという提案。この時、参考にしてもらうためにIbashoフィリピンのメンバーが農園の一画に自分たちで作った東屋、フィーディング・センター(Feeding Center)のペンキ塗りの様子を紹介しました。
この後、Ibashoプロジェクトで当面取り組む具体的な活動について、村ワークショップに参加された方から話を伺いました。具体的な活動にするため、どこで行う活動家という場所とセットにして話してもらったところ、次のような意見があげられました。
○農園:農園での野菜作り、コンポスト(堆肥作り)。現在農園にしている土地は水が引かれていないため、Ibashoプロジェクトのメンバーの1人の家の庭に農園を移す計画がある。
○高齢者住宅(Oldage Home):これまでもワークショップ、ミーティングを開いたり、イヤリング作りを行う場所として利用してきた。庭の花壇では花を育ててきた。現在、高齢者住宅では増築工事が行われている。増築後には図書館、インターネット・カフェを開く予定であり、そのための家具作り。また、花壇は増築工事のため休止しているが、増築後には再開する予定。
○チャウタリ(Chautari):菩提樹の木の下にベンチなどが作られ、人々が集まる場所になっている。このような場所をネパールでは「チャウタリ」と呼ぶ。この日の意見交換会では、村の2ヶ所のチャウタリがあげられた。高齢者住宅に近い方のチャウタリは、高齢者が座るためには高いので、高齢者でも座りやすいように改善したい。
○女性グループ(Mahila Samuha)の建物:この建物は女性グループのメンバーがレンガを積んで自分たちで建てた建物。構造は既に完成し、今後、ペンキ塗りをするとのこと。女性グループの方の話では、この建物は女性グループのメンバーが自分たちで建てた建物として、自治体(Munisipality)内では最大規模のものだとのこと。この建物ではワークショップ、ミーティング音楽、ダンスの練習、イヤリング作りなどを行う予定であり、建物の屋内・屋外で使える椅子などの家具作りをしたい。
○Ibashoの拠点となる建物:現在、Ibashoの拠点となる建物を確保する土地には、建物が建っている。2015年ネパール大震災の影響を受け、1階の壁のレンガが崩れ落ちているが、構造自体には大きな影響はないように見える。この建物をリノベーション、あるいは、建て直すことでIbashoの拠点となる建物を確保する予定。この場所で使える椅子などの家具作り。
○掲示板:Ibashoに関する活動が行われている場所を案内するための掲示板。掲示板を立てる場所として、村の方からは高齢者住宅の前、Ibashoの拠点となる建物の前、高齢者住宅の近くにあるチャウタリの前、女性グループの建物の近くにあるチャウタリの前の4ヶ所があげられる。
この他に、特定の場所で行うものではありませんが、イヤリング作り、ネパール料理作りという意見もありました。
3つの活動
以上のような意見が出されました。この中で優先して取り組みたい活動をあげてもらったところ、最初にあげられたのがチャウタリの改善、次に掲示板作り、そして、高齢者住宅内の図書館のための本棚作りです。
8月4日(金)のワークショップの後半では、3月にも村を訪問したアメリカの建築家で、Ibashoプロジェクトの協力者であるSさんが前に出て、村の方から、それぞれどのようなデザインにしたいか意見を伺いました。
チャウタリの改善
上に書いた通り、高齢者住宅に近い方のチャウタリは高く、高齢者が座るには難しいという話を聞いたSさんは、チャウタリの周りに台を作ってはどうかと提案。それに対して、1人の男性から、現在のチャウタリの周りに低い部分を一巡させ、二段にしてはどうかという提案がありました。
実際にチャウタリの高さ・大きさがわからないとデザインを考えることができないということで、ワークショップ後、実際に高さ・大きさを測定することに。高齢の男性4人と一緒にチャウタリへ向かいました。サイズを測定したところ、高さは2.6ft(≒80cm)、直径は11.25ft(≒340cm)。チャウタリを測定していると、何をしているのかと寄ってくる人、周りで眺めている人、周りを走りまわる子どもたち。近くでは若い人が立ち話。バスも何台か通り過ぎました。こうした光景が見られたことからも、チャウタリが地域の人々が行き交う大切な場所になっていることが伺えました。
Ibashoの掲示板作り
Ibashoの活動が村のどの場所で行われているかを示すためには、村の地図があればいいという意見があり、参加された方により見本となる地図が描かれました。文字が読めない人がいるので、文字だけでなく絵でも場所が特定できるようにという意見も。掲示板の大きさは3ft×4ft(約90cm×約120cm)がいいという意見。素材については鉄、アルミニウムという意見が出されましたが、入手できるかどうかも含め、来週改めて議論することとなりました。
高齢者住宅内の図書館のための本棚作り
図書館に置きたい本として最初にあげられたのが宗教に関する本。この他に新聞、子どもの向けの本、女性向け雑誌などがあげられました。本棚の大きさは、高さ×横幅が4フィート×4フィート(役120cm×120cm)の本棚が2つあればいいという意見。素材とする木材は、木の種類により値段が様々だという話で、村で日常的に使われている木材がよいことを伝え、木の種類、費用などは改めて確認することとしました。
8月4日(金)のワークショップでは以上のような話し合いを行いました。上に書いた通り今回の訪問の目的の1つは「Ibasho as a Village」の実現を目指し、村にある場所の環境改善のための具体的な活動を行うこと。
この日のワークショップには高齢の男性4名が最後まで参加され、ワークショップ後にはチャウタリの測定にも同行してくださいました。何をするかが具体的であり、それに対して自分が何らかの役割を担えそうだと思ってもらえたなら、活動への自主的な参加が生まれるのだと感じました。
こうした具体的な活動の結果が目に見えるかたちで現れることで、参加した方の手応えにもなり、また、村の人にIbashoプロジェクトが何をしているのかを伝えることもできる。それが、新たな人の関わりのきっかけにもなる。
そして、この点に(必ずしも建築に関わる者とは限りませんが)場所の価値を発見したり、場所に手を加えることでその場所を蘇らせたり、新たな使い方を提案したりすることを専門とする者が果たせる役割があると言えます。
場所の価値を発見したり、蘇らせたり、新たな使い方を提案したりすることによって、目に見えるかたちで村に変化が生まれたならば、それが村にとって意味あることだと認識されたならば、それを参考にする動きが村に広がっていく可能性がある。その意味で、「こういうことなら自分たちにもできそうだ」という考えを共有してもらうことが最も基本となる役割なのかもしれません。「Ibasho as a Village」とは、そうした具体的な活動を重ねることによって実現されると考えています。