現在、ネパールのマタティルタ(Matatirtha)村では、ワシントンDCの「Ibasho」によるプロジェクト(Ibashoマタティルタ)が進められています。
プロジェクトのきっかけは、2015年に遡ります。2015年3月18日、東北大学にて第3回国連防災世界会議のパブリックフォーラム「Elders Leading the Way to Inclusive Community Resilience」が開催。パブリックフォーラム開催に合わせてレポート『Elders Leading the Way to Resilience (Conference Version)』(The World Bank, 2015)を刊行しました。このレポートを読んだネパール・カトマンズのソーシャルベンチャー「Bihari」代表のSさんから、ワシントンDCの「Ibasho」代表のEさんから、2015年ネパール地震の被災地においてIbashoプロジェクト実施の可能性について打診がありました。
2016年2月、ワシントンDCの「Ibasho」のメンバーらがネパールを訪問。この時に訪問した場所の1つがマタティルタ(Matatirtha)村です。この後、2016年6月・7月にもマタティルタを訪問。村の人々とのワークショップなどを重ねる中で、クラフト作り、堆肥作り、農園、花の栽培に取り組むという意見が出されました。これを受け、2016年8月から花の栽培を、2016年9月からは農園での農作業、2017年6月からやイヤリング作りがスタート。
Ibashoマタティルタの特徴は「Ibasho as a Village」(Ibashoの8理念が実現される村)というコンセプトにあります。
ワシントンDCの「Ibasho」が掲げる理念は、高齢者が何歳になっても自分にできる役割を担いながら暮らせる地域、高齢者が他の世代から隔離されず他の世代との関わりを持ちながら暮らせる地域の実現。
大船渡の「居場所ハウス」、フィリピン・オルモック市のIbashoフィリピンには拠点となる建物があります。それに対して、Ibashoマタティルタでは拠点となる建物を建設せず、村にある既存の建物を利用したり、改修したりすることで、マタティルタ全体で「Ibasho」の理念を実現しようとしていることです。
Ibashoマタティルタに関わりのある場所として、村には次のような場所があります。
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農園
上で紹介した通り、Ibashoマタティルタでは2016年9月から農園での農作業をスタート。メンバーから借りた土地を農園とし、野菜を栽培したり、堆肥作りをしていました。
ただし、この土地では水の確保が難しかったため、別の土地を探すことに。2018年4月、土地のリース契約を結び、5月から新たな農園での農作業が始められました。
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小屋(Hut)
新しい農園の隣に建設された小屋。2018年5月から6月にかけて、Ibashoマタティルタのメンバーの手によって建設されました。柱や梁、扉、ベンチなどには竹、壁の一部にはシート、屋根にはトタンが利用されていますが、不用品を活用したりと、なるべくお金をかけずに建設したとのこと(一部の部材は、「居場所ハウス」からの寄付金によって購入したということです)。
小屋はIbashoマタティルタのミーティングに利用されている他、今後は農機具を保管したり、収穫した野菜を干したりするためにも利用したいということです。
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2018年12月31日(月)には、メンバーにより小屋の周りに排水のための溝を掘る作業が行われました。
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掲示板
2017年8月、掲示板作りを行いました。掲示板には村の地図を掲示するという話になっていたため、地図も作られました。2018年1月に掲示板が設置。掲示板が設置されたのは、バスが通る村の主な道路の脇です。
2018年12月に訪問した際には、地図が新しく作り変えられていました。
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チャウタリ(Chautari)
ネパールにはチャウタリ(Chautari)と呼ばれる場所があります。菩提樹の木の下のベンチで、人々が集まったり、座ったりする場所になっています。
マタティルタには2つのチャウタリがありますが、高齢者が座るためには高いので、高齢者でも座りやすいように改善したいという話が出されていました。
2018年4月、Ibashoマタティルタのメンバーの手によりチャウタリの改修作業が行われました。菩提樹の周りのベンチを一旦取り除き、新たに段差をつけたベンチを設置。その後、ペンキで塗装。改修したチャウタリは掲示板のすぐ隣にあり、チャウタリに座ってバスを待っている人などの姿を見かけました(上の写真は改修前のチャウタリ)。
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Ibashoマタティルタのメンバーはもう1ヶ所のチャウタリも改修しようとしましたが、もう1ヶ所は村の別のグループにより改修されたとのこと。Ibashoマタティルタのメンバーが直接改修することはありませんでしたが、Ibashoマタティルタが結果として村の環境を改善することに影響を与えたと言うこともできます。
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女性グループ(Mahila Samuha)の建物
マタティルタの女性グループ(Mahila Samuha)のメンバーが自分たちでレンガを積んで建てた建物。女性グループのメンバーが自分たちで建てた建物として、自治体(Munisipality)内では最大規模のものだとのこと。
2016年2月の訪問時はレンガが積まれた状態でしたが、その後、ペンキの塗装がなされ、電気も使えるようになっていました。さらに、2018年12月の訪問時には2階部分の増築が行われているのを見かけました。
Ibashoマタティルタには女性グループのメンバーも参加しており、この建物でIbashoマタティルタのワークショップ、ミーティングを開くことがあります。
今後は、村に伝わる音楽を子どもに伝えるプログラムを開催するなども行いたいということです。
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高齢者住宅(Oldage Home)
高齢者住宅は住民によって結成された委員会(Oldage Home Committee)によって運営現在、高齢者住宅には24人の高齢の女性がお住まい。住んでいるのは1人暮らしであったり、虐待を受けたりした女性だとのこと。
高齢者住宅も、2016年2月に初めて訪れた時から変化しており、新たな3階建の棟、2階部分へアクセスするためのスロープ、オフィス棟が建設されたりしています。2018年12月に訪問した時にも、既存の棟の3階部分の増築が進められていました。
当初、Ibashoマタティルタのワークショップ、ミーティングは高齢者住宅で行っており、高齢者住宅の敷地の一画に花壇を作ったりしていました。その後、ミーティング、ワークショップは女性グループの建物や小屋(Hut)で行うようになったため、以前ほど高齢者住宅との関わりはなくなっていますが、Ibashoマタティルタのメンバーからは、高齢者住宅とより関わっていくという話が出されています。
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Ibashoマタティルタに関わりのある場所を紹介しました。Ibashoマタティルタの特徴は「Ibasho as a Village」(Ibashoの8理念が実現される村)というコンセプトを掲げていることですが、もう1つの大きな特徴が、高齢者を含めた住民自身が場所を作ることで、地域を目に見えるかたちで変えていることです。これは農園、小屋、掲示板作り、チャウタリの改修に現れています。
Ibashoマタティルタは、何らかのプログラムを行うだけでなく、プログラムを行う場所自体を作るプロジェクト。こうしたプロセスを通して地域に様々な場所が生まれた結果が、「Ibasho as a Village」が実現された状態だと言えます。